――カロス地方ミアレシティ、ノースサイドストリート。
幾つもの割れたガラス瓶や薬莢が転がり、舗装された地面は所々焼け焦げ傷付き、辺りには何と形容したら良いのか分からなくなるような匂いが漂っている。
周囲の住民は慣れた様子でバトルフィールドの外を歩き、四人に視線を向けるものは誰一人居ない。……それはある意味、最高に異様な光景だった。
焦げた道路を挟んだ片側には、腕や胴に切り傷をこさえながらも愉しげに笑うダイスと袖で口と鼻を覆い表情を隠しているモネ。
その反対側には、戦闘開始以前の様子は見る影も無く車椅子と言うよりは兵器と称するべき機械に乗った女性と道路に座り込んだ嘴マスクの男。
そのピンク色に染まった白衣には所々焦げたような跡や自然に出来た物ではない小さな穴が開いていたりして、戦いの激しさを物語っているようだ。
「……これ以上は、危険かも。スウィ、キミはどう思う?」
「ボクもそう思うよ。奴らにこれ以上ガソリンと硝煙の臭いを嗅がされるのはゴメンだ……グウェンドリン!」
立ち上がった嘴マスクの男――スウィと呼ばれた彼はそう叫ぶや否や、車椅子の女性――グウェンドリンと呼ばれた彼女の膝に飛び乗る。
座るというよりは引っ掛かったような――文字通り荷物のように乗った格好になってしまうけれど、それでも彼らの行動には迷いが無い。
驚いたように「あっ……待てよ! 未だ勝負はついて無ェぞ!」と静止するダイスの声が届くよりも前に、車椅子はあっという間に武器を収納し元の姿へ。
そしてボール部分をくるりと反転させたなら、瞬く間にボール部分をジェットに変えて。追い駆ける暇も与えず、座っているグウェンドリンとその膝の上のスウィを乗せて通りの向こうへと消えて行った。
「あの野郎共ッ……こちとら消化不良なんだよッ!」
「待ちなさいダイス、深追いは無意味です。今はボスの命令が最優先……彼らよりも、歌姫を探しましょう」
見えなくなった敵を追うべく走り出すも、モネの言葉に立ち止まるダイス。
暫く黙り込んだ後に「しゃーねぇ、アンタがそう言うなら」と彼女の傍に戻り、そして「んで? ネーサン、この後どーすんだよ。歌姫チャン探すっつっても、俺様なーんにも知らんぜ」と普段とは違う馴れ馴れしい口調でモネに尋ね返した。
普段と違う様子も慣れたもので、さして気にする様子は無く彼女は「それはこれから考えれば良いのですよ」と静かに煙管を吹かす。
スウィと呼ばれていた嘴マスクの男が使っていた得体の知れない芳香、それを身体から追い出す為だ。あんなものが残っていては、この先戦えたものではない。
そんな姉貴分とも呼べる存在の様子に口を挟むでもなく、ダイスは「ハーブの匂いなんてしねーけどなァ……」とぼやく。
――彼が二人の前に姿を現したのは、そんな折だった。
「酷い臭いがするから何かと思って来てみれば……あっ、モネさん! それと、ダイスじゃねぇか。何やってんだ? こんな所で」
背後から聞こえた声に反応して振り向いた二人の前には、白いスーツの青年が立っていた。
彼はモネとダイスの姿を見て一瞬嬉しそうに表情を輝かせるも、その直後漂ってきた凄まじい異臭に顔を歪め二人の背後に広がる惨状へと目を向ける。
驚くのも無理は無いだろう、何せ普段マフィアやギャングの銃撃戦にも平気な顔をしてるストリートの道路が、火炎瓶の炎で焼かれ真空波で傷跡を残され色々と大変な事になっているからだ。
「おお、ワンコロじゃねェか。テメェこそ、何でこんなトコに居んだよ」
「ワンコっ……!? 何だ、お前ヒートフォルムか?」
「ハイ、せーいかーい。毎度お馴染みヒートフォルムのダイス様だぜ! ……んで、どうしたんだよコルテ」
普段と違う仲間の様子に驚いたらしい白スーツの青年――コルテと呼ばれた彼も、それがダイスの数ある“役”の内の一人だと分かれば呆れ気味に溜息をつきながら「さっき言っただろ、凄い臭いがしたから気になって来たんだって」と答えた。
「それは――先程の、侵入者の放った物ですね。コルテ、あなたにも分かりましたか」
「はー……ネーサンと言いワンコロと言い、嗅覚の鋭い奴は大変だねェ。ま、かく言う俺様でも割りと真面目に鼻がひん曲がるかと思ったんだけどさ」
適当な発言もいつもの事と、二人は特に気にする素振りも見せない。モネの言葉に頷いたコルテは「そう言えば」と何かを思い出したように話を続けた。
「この辺りで、真っピンクの服着た怪しいマスクの男と変な車椅子に乗った女の二人組を見なかったか? アイツら……折角捕まえたメロエッタを逃した挙句、仕留め損ねちまったんだ」
「その二人って……ダイス、間違いありませんね」 「モネさん、アイツらを知ってんのか!?」
「あんなヘンテコな奴らが他にもミアレを闊歩してるたァ思いたく無ェしな。……コルテ、ソイツらならついさっき俺様とネーサンでバトったぜ」
途中で逃げられちまったけどな、なんて忌々しげに呟くダイスとは対照的にコルテは驚いたような表情で取り逃した彼らが居たであろう場所――焦げた道路の、向こう側へと視線を向けた。
仄かについさっき嗅いだような奇妙な匂いがするけれど、きっとそれもその内消えてしまう。
――“祭り”は、まだまだ終わりそうにない。
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(お名前だけお借りしました!)
メロエッタさん@NPC
(お子さんお借りしました!)
モネさん@黒壱こうたさん
コルテージュさん@アヤさん
スウィさん@夜士さん
グウェンドリンさん@沙凪さん