何時からか、この世界は存在した。

 何時からか、私はこのセカイに住んでいた。

 何時からか、私は自分が独りだと言う事に気がついた。

 

 

 

誰もいないこの世界で 

 

 

 

 

 誰も、居ない。このセカイで、私は一人だけ。いや、一匹と言った方が正しいか。

 ギラティナ、はんこつポケモン。それが、私。長い身体をうねらせ、このセカイを飛び回るポケモンの名前。

 

 何時からか私は、外のセカイに出ることを知った。自分の意思でこのセカイに穴を開け、別のセカイへの入り口を作る。

 外のセカイには私よりもずっと小さいポケモンが沢山居て、ニンゲンという生き物も沢山居て、二種類の生き物は互いに支えあい、共存していた。

 

 私は、太く大きくなった足と、2枚になって大きくなった翼で、色々な物を見に行った。

 自分の名前も、ニンゲンの事も、私以外の生き物が存在していた事も、全部外のセカイで知った事だ。そして、それらは全てニンゲンが作った。

 私は、ニンゲンに憧れた。何でもできて、頭の良いニンゲン。優しくて、ポケモンと遊んで喜ぶニンゲン。何より、その笑顔を見るのが大好きだった。

 

  しかし、私は少しニンゲンを見誤っていたようだ。私は見てしまったんだ。

 ニンゲンが森を薙ぎ倒し、ポケモン達を乱獲して檻の中に中に閉じ込める所を。豆粒みたいなポケモン達が、豆粒みたいなニンゲンの手によって、傷付けられ、捕まえられ、殺される。

 

 私は見ていられず、初めて地上に降り立った。惨劇を終わらせるために。私は叫んだ。「やめろ!」と。

 しかし、ニンゲンはまったく答えず、それどころか、小さな玉からポケモンを出し、私を攻撃した。

 大きなポケモン達が様々な技で私を攻撃する。

 

 

 痛い、止めろ。何故そんなニンゲンの言う事を聞く!

 

 

 私はニンゲンもポケモンも傷付けたく無かった。必死に「やめろ!」と叫んだが、ニンゲンもポケモンも聞き入れる所か、答えようとすらしない。

 絶え間なく続く攻撃に耐え切れずに、私はポケモン達の檻を壊し、そのまま外のセカイから逃げ出した。

 

 こっちのセカイは誰も居ない。

 ニンゲンも、ポケモンも。だから、寂しい反面、静かだという利点もある。

 

 私は、この時初めて、ニンゲンは優しいばかりじゃ無いって事、そして、どんなに頑張っても私はニンゲンと会話が出来ないという事を知った。

 これ以上ニンゲンに私の存在を知られたら、きっとこのセカイの事もニンゲンに知られてしまう。私は、外のセカイに出ることを止めた。

 

 何時からだろう。私のセカイに、一人のニンゲンが現れた。

 タテトプスと一緒に居たそのニンゲンは、ただ何時も楽しそうに私を見ている。優しいニンゲンのようだ。別に、追い出すつもりも無いし、少し寂しかった処だ。

 攻撃せず、私は普通に過ごす事にした。

 

 それから程無くして、新しいニンゲンが私のセカイに入ってきた。綺麗な銀髪の、最初のニンゲンより少しだけ小さいニンゲン。

 何故か、そのニンゲンは私の心に焼き付いて離れなかった。

 

 そのニンゲンが楽しそうに私を見ると、何故か私も楽しくなった。

 そのニンゲンが笑うと、何故か私は堪らなく嬉しかった。

  

 長い間生きてきて、初めて抱いた感情だった。

 不確定でぼんやりしたセカイで、そのニンゲンだけが輝いているように見えた。

 何なのだろうか。この気持ち。

  

 

 

 

 

 

(私は君に恋をする)

(私がその感情が『恋』という名前である事を知るのは、もう少し先の話)

(2008/11/08)

(2010/06/06 微修正)