昨晩、夢を見た。
懐かしの母校、来神学園(と言っても、良い思いでは欠片ほども無いけどね!)に居た高校生の俺、新羅、ドタチン、そしてシズちゃん。
夢の中での俺達は親友同士で、そしてまるっきり普通の人間だった。
平和島静雄は怪力と短気さを失った温厚な高校生だったし、セルティ・ストゥルルソンという存在を知らない新羅は変わり者ではあるが真面目な優等生。
俺、折原臨也だって、人間愛もナイフも持ち合わせぬただの人。ドタチンは………特に変わり無し。(思えば、ドタチンが最後の良心だったような)
そんな四人が、入学して出会って友達になって、体育祭や文化祭を繰り返して(思えば、毎年シズちゃんと大暴れした記憶しかない)学園生活を謳歌して。
卒業式の帰り道、シズちゃんが俺に駆け寄って「大学行っても、また会おうな」なんて言って来て。
其処で、目が覚めた。
現在時刻、午前四時。就寝時刻、午後十一時半。波江は、(当然の事ながら)既に居ない。
現在位置、新宿の事務所にあるソファの上。
周囲にある物、クッションと毛布、以上。
あれ、俺って何時の間に寝てたんだろ。
思い出せない。ま、良いか。さして重要な事でもないし。
寝直そうにも、目は冴え渡り睡眠と言う選択肢を投げ捨てたようだし。
取り敢えず、シズちゃんにでも会いに行こうかな。
夢のナカ(夢の中限定の仲良し)とは言え、「また会おうぜ」なんて言ってくれた訳だし。
始発、もう動いてるだろうか。
動いてるだろうな。どちらにせよ、思い立つ日が吉日……ってね。
♂♀
「と、言う訳で。珍しく俺の方から自発的に会いに来たんだよシズちゃん」
「完璧に意味不明なんだよ、とうとう頭に蛆でも湧いたかノミ蟲」
間髪入れずに、悪態を返してきた。あはは、息ピッタリ! 気持ち悪い。
「酷いなぁ。こっちは態々早朝の山手線に揺られて来たって言うのに」
「朝っぱらから手前の顔を見ちまった所為で、こっちは気分悪ィんだよ」
あ、自販機来るか? 否、まだ大丈夫。
目の前の彼は、額に青筋こそ浮かべているものの未だ制御出来る段階らしい。嗚呼、詰まらない。
「まぁまぁ、そう言わないでさ。学園祭で、一緒に居残りして看板仕上げた仲じゃない」
夢の中で、だけどね。敢えて言わない。君はもっともっと、惑わされて混乱するのがお似合いさ!
「は? 遂には記憶捏造か。ハッ、終わってんなノミ蟲。つか、正直手前が終わって居ようが居まいがどうでもいい。取り敢えず、ストレス発散に一発殺らせろ」
「えー? ちょっとー、何言ってんのさシズちゃーん。幾らストレス解消とは言え、俺にそういう趣味は無いんだけど?」
間延びした声、口調。目の前の相手に火をつける術くらい、五年来の付き合いだ。心得てる。
「ほぉ…………日本語も理解出来なくなったか、ノミ蟲。
なら――――死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
あ、放置自転車飛んで来た。アハハ、遅い遅い!
「何コレ、こんな物が俺に当たるとでも? って言うかさー、もっと冗談を知ろうよ。ほんの茶目っ気じゃない」
「煩え、死ね!」
「シズちゃんに殺されるなんざ、死んでも御免だね!」
あーあ、結局こうなっちゃった。ま、予想はしてたし寧ろ狙ってた程だけど。シズちゃんから逃げ切るなんて朝飯前だし。
……そう言えば、本当に朝飯前だった。帰ったら、波江に何か作って貰おう。
あ、そう言えば。
夢の中での俺達って、確かそれぞれ大学行ったんだよな。
新羅が、どっかの有名大学の医学部。シズちゃんは来良大学。俺とドタチンは……何処だっけ。具体的な名前は覚えていないけど、別々の大学に進学していた。
そうだ、だから夢のシズちゃんはあんな事を言ってたんだっけ。
あの台詞って、結構レアだよね。だってさ、
会おうと思えば何時でも会えるから。
マンションを訪ねれば、新羅が居る。池袋を歩けば、八割の確立でシズちゃんに遭遇する。扉に美少女の描かれたワゴン車を探せば、ドタチン達が居るし。(あれ、本当派手だよねぇ)
それに、俺にとっては大学行って就職するより情報屋家業の方が断然楽しい。クソッタレな仕事だけどね。
なぁんだ、夢より現実の方がよっぽど素晴らしいじゃないか。
「シズちゃん、シズちゃん」
「んだよノミ蟲。つか、その名前で呼ぶな打ち殺すぞ」
「俺は今、凄く幸せだよ。何がかって言うと、自分が幸せである事に気付けた幸せさ」
「……は? 何、訳の解らん事言ってやがる」
「ま、最後まで聞きなって。
例えばさ、もし俺とシズちゃんが普通に仲良しだったとしたら、如何する?」
「気持ち悪い、悪寒がする。手前と仲良しなんざ、死んでも御免だ」
「アッハハ、即答とは酷いなぁ。ま、癪だけど俺も同意見。
でも、現実は違う。現に、俺とシズちゃんはこうして殺し合ってるじゃないか!
そういう事。解ってくれた? それとも、シズちゃんみたいな単細胞には理解不能?」
「…………ゴチャゴチャと煩ぇんだよ。
俺は、お前みたいな、理屈ばっかりで意味不明、その上卑怯な野郎が、大 ッ 嫌 い だ」
「そう、それは奇遇だね。
俺も、シズちゃんみたいな理屈も言葉もついでにナイフも通じない力馬鹿の単細胞が大 嫌 い だ よ」
――そう。俺達は、お互い嫌い合ってるのが丁度良い。
興味を失われた夢は、髪を揺らす風と一緒に街に吸い込まれて行った。
今朝、どんな夢を見たのか。
俺にはもう、思い出せない。
とある可能性の話
(本当に、取るに足らない)
(2010/06/09)
(2010/07/20 微修正)