――苛々苛々。
何故私は彼を、彼らを尾行なんてしているのだろうか。どうせ二人とも友達なのだから、普通に声をかければ良いのに。
……彼らが二人とも、「只の友達」だったら私は迷わずそうしているだろう。
二人のうち、一方は同盟相手。もう一方は元同盟相手。
そして、その同盟相手の彼と親しげに、仲睦まじく、まるで恋人同士のように。会話しながら廊下を歩いている元同盟国の彼は、
私の、現恋人。
日常と疑心の境界線
お互い悪態を吐きながら、其れでも尚壊れぬ友好関係。私には理解できない。無論、フラアサのような敵対萌えはしっかりと心得ている。
しかし、お互いがお互いを嫌うような態度をとっているのに傍目から見ると仲睦まじき事この上ない様に見えるのは何故だろうか。
昔の私だったら、例え二人の内片方が愛しい愛しいアーサーさんだったとしても、アルアサ萌えで済ませられたかもしれない。
二人一緒に昼食を摂っていても、フランシスさんやマシュ……名前は思い出せないがアルフレッドさんそっくりの人と一緒でも、そこに私が居なくても、特に何も気にならなかったかも知れない。
でも、今の私では……。
昔は、よく一緒にお昼ご飯を食べようと彼の方から誘って下さる事があった。
特に予定が無ければ喜んでご一緒させて頂いたし、仕事や先約があればやんわりお断りすることもあった。
ある日、彼は会議が終わると私には目もくれずにアルフレッドさんの許に直行した。
何やら二人で話していたが、幾ら恋人同士とはいえ他人との会話に私が首を突っ込んではいけないと思った。
次の日、会議の合間合間、昼休み、会議が始まる前終わった後。暇さえあれば、二人でいるようになった。
偶に他の方々も混ざっていたが、そんな事は如何でも良かった。アルアサはアルアサで萌えたけれど、少しだけ寂しかった。
さらに次の日、二人は相変わらず一緒だったが何やら喧嘩をしているような口調だった。
お互いがお互いをキッと睨み付けて、相手が何か言う度に反論して。
ざまあみろ、と。思わず、そう思ってしまった。
でもアーサーさんが何かを言うと、雲が晴れたみたいにアルフレッドさんは笑った。それからまた、いつも通りの楽しげな会話。
いつも以上の、楽しげな会話。
後ろに居る私など当然の事ながら視界に入る筈も無く、アーサーさんの翡翠色の目に映るのは只一人アルフレッドさんだけ。
――苛々苛々。
私には見せた事の無い、楽しそうな笑顔。嗚呼、何と美しいのだろう。まるで、人形のようだ。
東洋人の私にとって、西洋人のすらりと伸びた背、鮮やかな金髪、色取り取りの双眸は憧れの対象だった。
それも、彼に萌えた一因。
そんな西洋人の二人が、並んで歩いているのだ。外見的に萌える事この上無い。
だけど、デジカメを装備する気にはなれなかった。
美しい、美しい、美しい。
愛おしい、愛おしい、愛おしい。
――嗚呼、厭おしい。
時折、考える事がある。
何故、アーサーさんは私を選んだのだろうか、と。
何故、他でもない私なんかを選んだのだろうか、と。
何故、アルフレッドさんやフランシスさんなどのもっと身近な人ではないのだろうか、と。
本当に、私の事だけを愛していてくれるのだろうか、と。
「このまま考えていても、仕方無いでしょう…」
元より、尾行なんてしていて何が変わるというのだろう?
只々一人で悶々としているよりは、恥を忍んで直接聞いた方が早いに決まっている。
きっと、アーサーさんのことだから素直に教えてはくれないだろうけど。
それでも、きっと私を愛してくれている筈。
私は前方で談笑している二人に気づかれぬ様、一人帰路についた。
もし直接聞いて拒絶されたら…なんて考えにも、全く至らぬまま。
――いらいらいらいら。
(2009/09/18)
(2010/07/20 微修正)