最近、アーサーがやけに税を取るようになった。
「…とにかく! こんな法律止めにしてくれ! 皆だって怒ってるんだぞ!」
「……チッ。ったく、仕方ねぇな……。分かったよ」
舌打ちして、思い切り俺を睨み付ける君。その眼に、反省とか慈悲とか、そう言ったタイプの優しい感情は何処にも見当たらない。
面倒だ、逆らうな、道具の癖に。そんな、悪意と害意だけ。
「もういいだろ。とっとと帰れ、バカ!」
なんだい、アーサーの奴。
俺は挨拶も無しに、アーサーの部屋を出た。
彼の部下に案内されて、本国まで帰る。けど、その間中ずっと俺を見る部下の目が冷たかったのはきっと気のせいじゃない筈だ。
どこか、俺を人扱いしていないように感じる。俺をアルフレッドとしてではなく、自国を肥やすための道具としてしか見ていないような目。
「君、アーサーと同じ眼をしてるな」
笑いながらそう言ってやったら、そいつは色の事だと思ったらしく、愛想笑いで「そうですか」とだけ返した。
本当、バカだな。君も、君の部下も。
「アーサーの家まで押し掛けた甲斐あって、どうにか印紙税とか言うのを撤廃させることに成功したんだぞ! この前のも、俺達が皆で反対してどうにか撤廃に追い込んだんだ。
だってそうだろ? 砂糖や紙まで税を取るなんて、バカバカしすぎるよ!」
そうだそうだ! 誰とも無く、そんな声が上がる。それは徐々に皆に伝染していって、ぱらぱらとした声が大声に変わっていく。
皆、同じ事を思ってる。そして、俺も。
何かにつけて税を取る、アーサーの家に不信感を募らせていた。
財政危機がどうのこうのと言っていたけれど、これじゃあまるで、俺達が君達のためだけに存在しているみたいじゃないか!
「俺達は、アーサー達の為の道具じゃないんだ!」
拳を握り締めて、叫ぶ。皆が口々に賛同する中、俺は一人、昔の彼を思い出していた。
広い広い草原に一人ぼっちだった俺に、態々会いに来てくれた彼。
出会って即弟宣言されたけど、凄く嬉しかったんだぞ?
フランシスの料理は美味しそうだったけど、それでも君の傍に居たいと思ったんだ。
当時の俺は……ね。
怖い本を読んだ夜は一緒に寝てくれたし、忙しい時でも俺に会いに来てくれた。料理だって作ってくれたよな。…フランシスが作った方が美味しかったけど。
誕生日には手作りの兵隊人形だってくれたし…思い出を挙げ出したら、きっとキリが無い。
だから、その分辛いんだよ。今の、君とのギスギスした関係が。
なぁアーサー。どうしたら、また昔みたいに笑ってくれるんだい?
それから、大体一年後のことだった。
「おいアルフレッド、聞いたか? アーサー達が、また新しい税をかけるみたいだ!」
「何だって!?」
国民の一人が言うには、茶、ガラス、紙、ペンキetc…に、輸入関税がかけられるらしい。そんなの、この前の紙の税と一緒じゃないか!
そうやってまた、俺達を食い物にする気かい?
だから、俺達は徹底的に反対した。あちこちで反対運動を起こして、抵抗すること三年。
どうにか、その下らない法律はまた撤廃された。けど。
「おいアーサー! 茶に対する税が残ってるって、一体どういうことなんだい!?」
撤廃された、筈なのに。まだ茶にだけ税が残ってる。だから、俺はアーサーに文句を言いに行ったんだ。
それなのに、当の本人は面倒くさそうに俺を一瞥しただけ。書類から眼を離そうともしない。
「煩ぇな。上が決めてんだよ。文句があるならそっちに言え」
「だからって――」
俺が何か言いかけるのを、彼は手で制した。そして、
「黙ってろ、Colonial.」
それだけ言って、彼は会話を一方的に打ち切った。
彼の部下に連れ添われて、部屋を出る。
部下が何か言っていたけれど、そんな事はどうでもいい。
頭の中では、彼の言葉だけが渦巻いていた。
Colonial.
植民地。と、彼は確かにそう言ったんだ。
ああ、アーサー。
やっぱり君は、俺の事を道具としてしか見ていなかったんだね。言葉なんて無くても理解出来る。
あの時の君の目は、昔の君とは違ったから。
俺の記憶の中の君の笑顔が、音を立てて砕け散った気がした。
君はもう、君じゃないんだね。
なら、俺に躊躇う要素は何も無い。
棄ててあげるよ。君の大好きな茶葉とやらを。
俺に税をかけて、その挙句奪い取ろうとした紅茶を。
全部全部、海に捨ててあげる。
もう俺は、君に従わない。
さようなら、僕の愛した君。
さようなら、君の愛した僕。
崩れる箱は決別の音
(でもね、君はやっぱり昔の優しいままだったよ)
(だって、あの時俺を撃たなかっただろ?)
(2009/08/04)
(2010/07/20 微修正)